山月記 of the Contemporary

大事なのは、他人の頭で考えられた大きなことより、自分の頭で考えた小さなことだ

My Life Without Me を観て

2003年に放映されたカナダの映画。村上春樹がGod Only Knowsについて語っている時にこの映画のことに触れたので、それから観たいと思っていた。確かに、名作っていう程の映画ではないかもしれない。でも、なんか手作りの映画っていうか、そういうった雰囲気のある映画で、主役の女性の演技や、子役、夫や母、皆の演技も真に迫っていて、僕は個人的にずいぶんと楽しんだと思う。

 

気に入った点はやはり、音楽のチョイス。これから死にゆくと分かっている女性が、愛する夫に対して歌うGod Only Knows。あなたをいつも愛しているとはかぎらないかもね。でも、いまここであなたを愛しているのは確か。その後のことなんて、神様しか知らないわ。そんなふうに現実的に生を見つめながら、彼女は死ぬ前にやるべきことを成し遂げていく。

 

ひとつ特異で面白かった点は、彼女のリストの一つに、他の誰か違う男と寝てみたい。真剣に愛されてみたい。とあったことだ。この映画の一般的な評価は星が三つくらいと、あまり高くはないが、こういう倫理観に触れるところが一部の読者に受け入れられなかったのではないかと思う。死ぬと分かっていた彼女は、何の後悔や罪悪感も感じずに、一般の倫理観を通り越して自分の「生」を充実させた。誰かに愛されるということほど、この世に自分の存在を受け入れられ、歓迎され、満足を与えてくれるものはないのであろうか。それを一般の性についての倫理観は、そういった愛をカップルや家庭の中に閉じ込め、本来の人間の愛の形を抑圧してしまう。(日本の平安期などの恋愛のあり方も参照)ある意味、死に立ち向かうことによって、人間は自由になれるのかもしれない。いつも死から逃げよう逃げようとしているのが現代の特徴であるが、これについても考えさせられた。ま、普通に、ほかの人とセックスしてみたいとか、自分の女としての魅力を試してみたいとか、そういった好奇心から、死ぬまでにやってみたい!と思ったのかもしれないが。。